久々に帰る鹿児島には
自分にとって
かけがえのない二人の弟たちが住んでいる
実家には次の弟が母親と二人で暮らしている
10年前、大きな事故をして
体に一生付き合わねばならぬハンデを負って
今は独り身である
妻と子供は
経済的な問題は
現実的に苛酷で
ときに愛情を超えがたく
静かに去っていった
そんな弟と久々に会った
落ち込みがちな彼の人生の中で
今年の夏は僥倖が舞い込んだ
入退院を繰り返したとはいえ
10年もの長い歳月の間
社会人としての
社会との交流を断絶した時間
そんな苦行ともいえる長い時間の末
今年の夏
新しい職場に通勤できることになった
もちろん障害者という告知は
事前に了解いただいたうえである
といえどいかなるトラブルが起こりうるか
わからない
会社の規則で
三か月は見習い期間のため
今はまだ正社員ではないのである
社会人として一日立ち仕事は
なれぬ体には大きな負担で
どこそこに痛みは貫く
といえど今までの仕事のないつらい時間と比べれば・・・
と弟は言う
何とも神様の温情に
胸の内がせりあがるような感きわまるものがあり
そのことも今回の帰省の大きな理由の一つである
そんな、ようやく社会人として忙しい身分となった弟が
これも何の運のめぐりあわせか
私が帰省した翌日が休日であった
もちろん会社に認められた正当な休日である
帰省した翌日にレンタカーを借りることにしていた
JRでレンタカーを借りに行き
それからは車のある快適な鹿児島の街になる
足の不自由な弟は
貴重な休日を私に合わせてくれた
二人で墓参りに行った
父方の墓と母方の墓を
もうすでにすっかりおじさんになった
兄弟二人で参った
夏の盛りの午後
夏ぞらには大きな入道雲が広がり
耳には夏の暑さを謳歌するがごとき
蝉の合唱が心地いい
汗が額から流れ落ちる
それも幸せの時間である
二人で墓石に水をささげ
新しい花をたむけ
線香に火をつけて
静かに合掌する
弟が何を祈ったかはわからぬが
私は弟の幸運をまずは報告し
そして今生きている母親始め
身近な親族が健康で幸せであることを感謝した
前向きになりつつある弟は
自分の街である鹿児島のことを学ぶ必要を
最近感じ始めたという
そんな彼と私のニーズがぴたりとはまり
墓参りの後は
これも墓参りのようなもので
南洲墓地に参った
西郷を取り囲むように林立した墓石群は
そのまま往時の薩摩隼人の絆を彷彿とさせる
手を合わせると往時の底抜けに明るい
薩摩隼人どもの笑顔群が脳裏に浮かんだ
弟と二人南洲神社を参りながら
往時の西南戦争のいきさつなぞを話した
碑にある勝海舟のことなども話した
そのあと親戚のおばさんの家にいった
お土産は理由の一つである
元気な顔がみたいのである
80歳をこえるおばさんは
相変わらずやさしい笑顔で僕らを迎えてくれた
いつものように差し出してくれる
冷たい麦茶が
心にしみる
元気でいてくれてよかった
それでいておばちゃんは
最近の私の血圧の上昇を
心から心配してくれる
【ほんとに気をつけてね・・・】
その言葉はそのままおばちゃんにお返ししたい
弟と私
そしておばちゃんとその息子たち
そんな何時も鹿児島に帰れば
迎えてくれる
皆の笑顔が元気だったこと
そのことがとても勇気を与えてくれる
夏の鹿児島が
夕暮れを迎えようとする時刻
おばちゃんの
夕飯を食べて行きなさいという
やさしい言葉を
背に、また来ますと辞去した
今度会えるときは
少しはやせておきますというと
あなたはそのままでいいのよ
と言ってくれた
我々二人は
母の待つ家へ車を走らせた