2009年5月24日日曜日

ワンのこと

まだ自分が小学2年生くらいのころ
家族に1匹の犬が新しい家族として加わった

どうしても犬がほしくて
兄弟でしっかり世話をするという条件で
ペットショップで両親に買ってもらった

確か1万円だったと思う
当時の自分には1万円の相対的な価値はわからなかったが
ともあれ家族がもう一人【1ぴき】増えたのは確かだった

名前は兄弟で決めた

わんわん鳴くので
【ワン!】ということにした

雑種の雌犬だった

ワンはとてもきれいな目をした犬だった

柴犬のような茶色い毛をした小型犬だが
柴犬のような日本特有な四角い顔ではなく
もっと柔らかい顔立ちだった
母親などは【上品な顔立ち】といっていた
僕たちもそう思った


毛並みも薄茶色が時に黄金色に見えたし
ふわふわとしていた

腰のところが柴犬などと比べて
少しだけなだらかにさがっており
シェパードのようなシルエットだったりした
そんなワンがとても好きだった

人間のわれわれは当然ながら飼い主であり
主人である

しかしわれわれはまだ分別もつかない子供である
実際にはワンが第二の母親のように
われわれを見守っていてくれていた・・・
今になって思うとそうとしか思われない

ワンはとてもかしこい犬だった

ベランダから家の中に入って
我々と一緒に会話に加わっていた

そんな中で
われわれの家族構成での
立場を彼女なりに把握していたように思う

時に長男の私にいじめれらて泣かされた弟などを
無言で慰めてくれたりしていたようだし

私なども厳しい父親から叱られた時など
夜、暗がりでワンにご飯をやる時などに

【大丈夫よ!元気出しなさい!】
とやさしく言ってくれているような気がして
子供ながらにいつの間にか
ワンにとても頼るような感じになっていた

いつも柔和なワン

だけど他人が来たときは人変わりしたように吠えたてた

今まで見たこともないような怖い表情で
牙をむき出し威嚇した

自分の友達などを連れていった時なども
そんな顔をされて
友達を辟易させたりした

そんなときは
友人が帰ったそのあと主人の権限を行使して
偉そうにワンをこっぴどく叱りつけた

ワンは黙って叱られた
親の心子知らずである
守ってくれていたのに・・・・

そんなワンと長い歳月がながれ
われわれが日々成長する中
ワンは逆に衰えていった


ドッグイヤーというが
今思うといつの間にワンもおばあちゃんになっていたのだ

われわれ兄弟は友達と遊ぶのに忙しく
当初約束した【3人で世話をする】
という取り決めも
いつしか守られないようになり
散歩に連れていく回数もめっきり少なくなった


そんな日々が流れ去り
ワンが目に見えて衰弱していった

ある晩ご飯を食べなかった

そんなときだけ心配するわれわれ

【ワンがごはんたべないよ~お母さん・・・】

といったきりまたカーテンを閉めた
暖かい部屋で我々だけテレビを見ていた

寒い日だった

翌朝
昨夜のワンの食欲のなさが少し気がかりになり
カーテンをあけた

ワンが寒い中横たわっていた

エアコンの室外機の陰に隠れるように
横たわっていた

かたく冷たくなっていた


ワンはあっさりときれいにこの世を去った
ついさっきまで生きていた命が消滅する衝撃に
初めて直面した瞬間だった

ワン! 呼びかけたら
必ず反応してくれていたワンが反応してくれない

相談に乗ってくれたり
危険な他人から守ってくれたり
理不尽な主人の言いつけに黙ってしたがってくれたり
いろいろなことを教えてくれたワンだった

そんなワンの命の炎がついに消えた瞬間だった

神様はわれわれに平等に命の炎を
ひとり一つずつ授けてくださった

ワンの亡骸が横たわるその横には
寒風に果敢に立ちはだかる雑草が生きていた

雑草は生きている

ワンは死んでいる

雑草なぞはその体は小さいし
時にその一部を引きちぎられたり
寒風に吹きつけられたり
強い雨に降りつけられても
命の炎が潰えない限り青々とした葉が生え育つ

命の炎が消えていないからだ

ワンだってそうだった

昨日までのワンも
衰弱してはいるが
ワン!と声をかけると
クーンとないてそのうるんだ瞳でやさしく見つめてくれた

でも今朝のワンは動かない

命の炎が消えたからだ


今私の机の横には
100円で買ってきた観葉植物が小さい鉢の中で生きている

毎朝 おはようと声をかけ水をやっている

生きているのだ
いのちの炎が燃えているのだ

生きていなかったら水をのまないし
その青々とした葉はつややかではなくなる




散歩しながら
ふとワンのことを思い出した

そういえば今まで切所のとき
ときどき心の中で祈っていた

そんなとき時にワンに相談していたような気がする

【大丈夫だよ!】
そんな声が聞こえたような気がして
これまでやってきたような感じだ

これからもそうだろう

生きていたワン

天に昇ったワン

でも私の心の中では生きているワン

そんなことを想った

同時にそれぞれにただ一つの命のほのお
というものについても
かんがえた


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